AIと先端技術の進展により、これから多くの仕事がなくなると言われています。この急速な変化に対応するためには、新たな知識やスキルの習得、つまり「リスキリング(Reskilling)」が欠かせません。
2020年のダボス会議ではリスキリングが主要な議題として取り上げられました。この会議を契機に、日本国内でもリスキリングへの関心が高まっています。日本政府もリスキリングの支援を行っており、個人によるスキルアップにも補助金を活用することができます。
本記事では、2030年以降も活躍し続けたいビジネスパーソンのために、リスキリングの必要性、その進め方、経済産業省や厚生労働省の支援制度、実際のリスキリング事例について詳しく解説します。
リスキリングとは、日本語で「職業能力の再開発」を意味する言葉です。経済産業省およびリクルートワークス研究所は、リスキリングを以下のとおり定義しています。
“新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること”
引用:経済産業省・リクルートワークス研究所「リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流― P6」
つまり、時代の変化に対応し、新しい職業や仕事に適応するため、必要なスキルを学び直す取り組みがリスキリングと呼ばれます。
特にリスキリングが盛んなのはIT分野です。デジタル技術が普及し、一部の仕事が「AIに奪われる」と言われる今、AIやIoT、データサイエンス、クラウドコンピューティングなど、最先端のITスキルを身につけることが重要になっています。
リスキリングは単なる「学び直し」ではありません。ビジネスパーソンとして2030年以降も活躍したい方が、仕事で価値を創出し続ける手段として知識やスキルを新しく学び直すことを狙いとされています。これは円滑な労働移動(転職・副業・配置短観)、賃上げ・生産性向上を目的しており、日本政府が社会的に必要としているスキルを学んでもらうために、さまざまな支援を導入しています。
リスキリングと似たような言葉に、「アンラーニング」や「リカレント教育」があります。
アンラーニングは日本語で「学習棄却」と呼ばれ、自分の知識やスキルのレパートリーの中で、不要なものを取捨選択する取り組みを指します。
新しい技術が日々誕生する中で、すべての知識やスキルを習得するのは容易ではありません。自分の仕事において、将来的に有効でないと予想される過去の知識を捨て、将来的に重要度が高いものを集中的に学ぶのがアンラーニングです。
一方でリカレント教育は、リスキリングと違って現在の職場を一度離れ、大学や大学院などの別の機関で学び直す取り組みを指します。
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リスキリングが注目を集めたきっかけは、2020年に行われたダボス会議です。ダボス会議の2日目に行われたセッションでは、仕事の未来(Future of Work)のテーマと関連して、「リスキリング革命(Reskilling Revolution)」の必要性について議論されました。
リスキリング革命の背景にあるのが、AIやIoT、ビッグデータを中核とした技術革新を意味する「第四次産業革命」です。第四次産業革命によって、一部の職種は業務の自動化が進み、余剰人員が発生しています。第四次産業革命が与える雇用への影響は非常に大きく、2022年までに7,500万人の雇用が失われる一方で、技術の進歩が新たな仕事を生み、1億3,300万人分の雇用が生まれると言われています。
リスキリング革命は、こうした第四次産業革命に伴う人材の流動化に対応し、現在の雇用を失う人を新しい雇用に転換するため、知識やスキルの学び直しを促す取り組みです。世界経済フォーラムによると、2022年までの段階で、少なくとも54%の労働者に対してリスキリングが必要だと予測しています。
また、リスキリングはDX(デジタルトランスフォーメーション)と深い関わりがあります。DXはAIやIoTをはじめとした最先端の技術を活用し、ビジネスモデルを変革していく取り組みです。DXの実現には、ITスキルを持った人材が欠かせません。
しかし、経済産業省の試算によると、DXに必要な「ビッグデータ」「IoT」「人工知能」などの先端技術を担うIT人材は、2020年の時点で4.8万人不足していると言われています。
DXを推し進める人材を確保するため、既存の人材をリスキリングによって転換し、IT人材を優先的に育てていくことが課題となっているのです。
参考:世界経済フォーラム「リスキリング革命を実現するには」
参考:経済産業省「IT人材育成の状況等について」
ダボス会議の提言を受けて、欧米では企業が主体となって、従業員のリスキリングに取り組む動きが広がっています。しかし、日本企業のリスキリングの状況は、欧米と比べると充分ではありません。
『月刊総務』の調査によると、7割以上の企業が「年次が上がるにつれて、学びの機会が減っていると思う」と回答しています。社員に対して、リスキリングをはじめとした学びの機会を提供している企業はあまり多くありません。
また、社員のリスキリングを推進する予算も不足しています。リスキリングの必要性を9割以上の企業が実感している一方で、1人当たりのリスキリングの予算は約8割の企業が3万円未満にとどまり、年々減少傾向にあります。
こうした状況を改善するため、日本政府はさまざまなリスキリング支援を打ち出しました。例えば、経済産業省は「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」を開始し、IT人材へのキャリアアップにつながる講座の認定を行い、リスキリングしやすい環境づくりを進めています。
さらに、2022年10月に召集された臨時国会では、岸田文雄首相が個人のリスキリングを支援するため、5年間で1兆円の投資を行うと表明しました。こうした国による取り組みが功を奏して、企業がリスキリングを実施する事例も少しずつ増加しています。
参考:日本経済新聞社「リスキリング支援「5年で1兆円」 岸田首相が所信表明」
2030年も活躍できるビジネスパーソンになるには、企業に依存するよりも、個人でリスキリングに取り組む必要があります。
上述した通りAIの発展により、現在ある仕事が減っていき、新たな仕事が増えていくことが予想されています。「2030年には仕事がなくなっているかもしれない」「自分の仕事はこれから先もなくならないのか」と不安を抱いている方も多いのではないでしょうか?
将来自分の仕事がなくなりそうで不安な方や、今よりも高い給与を得たい方は、積極的にリスキリングに取り組みましょう。リスキリングを進めれば、新しい仕事に必要な知識やスキルを身につけ、自分自身の市場価値を高めることができます。
リスキリングというと、「お金がかかるのでは」と心配する方もいるかもしれません。
実は、国が実施している支援制度は、個人でのリスキリングも対象としています。国の補助金を賢く活用しつつ、リスキリングに取り組んで、2030年以降も活かせる職業能力を獲得しましょう。
では2030年以降も活躍するためには、どのような知識やスキルが必要なのでしょうか。今後の社会で求められるスキルをまとめ、学びの機会を提供しているのが、経済産業省の「第四次産業スキル習得講座認定制度」です。
認定対象分野 | スキル |
---|---|
IT分野 |
|
IT利活用分野 |
|
引用:経済産業省「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」
例えば、DXの推進していく上で欠かせないAIやIoT、さまざまな手法でデータを分析する「データサイエンス」などのITスキルが、認定対象分野に含まれています。近年自動車業界で成長が著しい、自動運転などの技術も同様です。
その他、ユーザー視点に立つ「デザイン思考」や、柔軟なソフトウェア開発が可能な「アジャイル開発」など、新規事業の創出につながるスキルも注目を集めています。経済産業省の認定講座を参考にしながら、リスキリングで何を学び直すかを考えましょう。
先ほど紹介したDXやIoTに関連するスキルを学ぶため、国が支援している事業は以下の通りです。
管轄 | 支援事業の詳細 |
---|---|
経済産業省 |
|
厚生労働省 |
|
こうした支援事業は、個人でリスキリングしたい方も利用できるため、所属している企業がリスキリングに対する取り組みを実施していなくても、個人でリスキリングを進めることができます。
ここからは、管轄ごとに支援事業の詳細を見ていきましょう。
経済産業省は、リスキリングを目指す方向けに主に3つの支援事業を行っています。
「教育訓練給付金」は、スキルアップを目指す方を対象とした給付金で、講座の受講費用や大学・大学院の学費の一部が支給されます。在職者の方やパート・アルバイトで働く方も利用可能です。
給付金以外にも「キャリアコンサルティング」といってハローワークなどの事業所を通じて、リスキリングやキャリアアップに向けた相談を受けられる制度もあります。ジョブ・カードの作成を通じて、自分の現在のスキルや将来のキャリアプランを見直しが可能です。2030年以降も活躍できるビジネスパーソンとして、成長するために必要なスキルは何か特定するのに役立てられます。
では個人でリスキリングを実施する場合はどうすればいいのでしょうか。
ここでは、個人がリスキリングを通じて転職した事例を2つ紹介します。
新しい知識やスキルを学び、自分の興味のある分野で働いてみたい方は、リスキリングの事例を参考にしてください。
元銀行員の方の事例では、まずリスキリングの方針を決めるため、経済産業省のマナビDXを利用し、データサイエンスの無料コースをオンラインで受講しました。
その後、本格的にデータアナリストとしてのキャリアを歩むことを決め、ITスクールで専門的な養成コースを受講しています。
ITスクールの修了後、銀行で学んだ知識も活かし、金融関連のデータ分析に強い企業でデータアナリストとしてのキャリアをスタートできました。
元美容師の方の事例では、まず自分の経験を活かし、美容関連の情報を発信するブログ運用を開始しました。その後、オンライン講座でデジタルマーケティングのスキルを学び、ブログのアクセスを増やす方法やアフィリエイトの知識を習得しました。現在はブログ運用の成果をアピールし、デジタルマーケターとしてフルタイムで働いています。
事例のように自分の現在の職業と関連しているITスキルを学び、新たな職業に転職することもできます。リスキリングしたあとの将来像をイメージできないという方は、こちらを参考に、学ぶスキルを検討してみてくださいね。
上述した個人のリスキリング事例も参考にしながら、一人ひとりに合った方法でリスキリングに取り組みましょう。リスキリングを成功させるには、以下の3つのステップに沿って取り組む必要があります。
やみくもにスキルを学ぶのではなく、まずは自分に向いているスキルを知るところからはじめましょう。マナビタイムの適職診断では、自分に適した職業やスキルを客観的な視点から知ることができます。
30の質問に回答するだけで、おすすめの職種、学びたいスキル、必要な資格(国家資格や民間資格)が分かるため、リスキリングの方針を決めやすくなります。
次にリスキリングのゴールを明確化しましょう。データサイエンティスト、AIエンジニア、Webマーケターなど、なりたい職種をゴールに設定しても構いません。リスキリングのゴールから逆算して学ぶ分野を絞り込むことで、効率よく知識やスキルを学べます。
リスキリングの進め方に迷ったら、ITスクールなどを利用し、デジタルリテラシーを中心に向上させるのがおすすめです。今後、AIやIoTといった技術がますます普及し、一部の雇用がなくなると言われています。これまでIT分野と縁がなかった方も、ぜひ「マナビタイム」を活用してリスキリングを進めてみてはいかがでしょうか。
効果的にリスキリングするためには、ITスクールやオンライン講座の利用が非常に有効です。近年ではリスキリングを目的とした教育プログラムが増加しており、これらは新しいスキルを効率良く習得するのに役立ちます。
AIやIoT、データサイエンスなどの専門知識を学びたい方には、ITスクールの受講をおすすめします。受講費用はかかりますが、初心者の方だけでなく、さらなるスキルアップを目指す方まで、幅広くITスキルを習得できます。受講費用の一部は、厚生労働省の教育訓練給付金などの支援制度を活用すれば、後で還付を受けることが可能です。ITスクールによっては、コース修了後に職場や仕事を紹介してもらえる場合もあります。
ITについての知識やスキルは、オンライン講座で学ぶこともできます。講座の形式はWeb会議システムを利用したオンライン授業や、動画を視聴するオンデマンド授業などさまざまです。
無料講座もあるため、まず無料講座でITの基礎を学び、有料のITスクールで専門的な知識を身につけることをおすすめします。
AIが進化し、多くの人材が仕事を失う時代がやってくると言われています。2030年以降も変わらず安定したキャリアを築くには、リスキリングによって職業や仕事に適した能力を身につけることが大切です。
リスキリングの重要性は国も注目しており、さまざまな補助金や助成金が利用できます。国の支援制度を活用しつつ、市場価値の高いITスキルを持った人材を目指して、スキルアップに取り組みましょう。
【日本政府の推し】リカレント教育で稼げるIT業界へキャリアチェンジ!